四国のとあるファミリーレストランで、彼と向かい合って座っていました。
私は、この日が初対面です。
最初は世間話から始まりました。
仕事のこと。
家族のこと。
将来のこと。
話を聞いているうちに、私は一つの違和感を覚えました。
「この人は、本気で転職したいわけではない。」
そこで私は率直に聞いてみました。
「実は、まだ転職する気はないんじゃないですか?」
すると彼は、少し笑いながら答えました。
「はい、実はそうなんです。」
「今の会社に大きな不満はありません。」
「社長にもお世話になっていますし、一緒に働く人たちも好きなんです。」
やはり、私の感じた通りでした。
では、なぜ私に会いに来たのか。
彼は少し考えてから、本音を話してくれました。
「実は今の会社は、大工をしている父の知り合いの工務店なんです。」
「父に紹介してもらって入社しました。」
だから簡単には辞められない。
社長にも恩がありますし、父にも迷惑はかけたくありません。
そんな思いが、彼の言葉の端々から伝わってきました。
私は、転職を勧めることはしませんでした。
「今は、その会社で頑張ってください。」
「また何かあったら、その時に一緒に考えましょう。」
そう伝えて、その日は別れました。
それから数年。
一本の電話が鳴りました。
画面には、あの日ファミリーレストランでお会いした彼の名前が表示されていました。
「上原さん、ご無沙汰しています。」
「実は、転職のことで相談があります。」
あの日は、転職を考えていなかった彼。
数年の時を経て、自ら私に連絡をくれたのです。
**(第三話へ続く)**
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